冊子『楽』創刊にあたって
ずっと前から、山谷史をアジールの視点で問い直したいと考えてきた。今、やっとその願いが叶う時がやって来た。
様々な資料を調べて行くうち、だんだんとアジール的なものは、広く山谷を超え、広く社会全体を覆っていることに、あらためて気づきつつある。
社会の体制、規則、規律、法律…、おそらくそうした決まりごとから相対的にではあるが、自由な立場や場所、立場に立とうとする人々が、きっと、アジールと関係している。
もちろん山谷のことは書くが、そこから越境して社会全体をアジールの視点で塗り替えて見ると、新鮮な社会の姿が見えてくるだろう。
アジールは境界的現象ではあるが、境界にこそ社会の本質が隠れている。
アジールを古代ギリシャ語で「συλον(ásylon→侵すことのできない、神聖な場所)」と言う。それをあえて、「アジールに生きる人」、あるいは「アジールを目指す人」の意味として「アジロン編集部」と名乗ることにした。
そして冊子の名前は『楽』。
これは網野善彦の『無縁・公界・楽』からとった。
冊子をめくると、たこやきクン撮影の「楽園」というパチンコ屋の写真が目につくはずだ。
これは「楽」という自分達の定めたタイトルに対する一つアイロニーのつもりだ。
「樂」は確かに楽でもあるが、社会の決まりごとに逆らって生きることでもあるので、「苦」でもある。
「公界」が「苦界」でもあるように。
その狭間を、世間からの差別に抗して生きることでもある。
やがては、この社会が、傷つき処刑されたキリストを抱くマリア/ミケランジェロ「ピエタ」のように、あらゆる生命を包括してくれる社会を夢見て。
発行人 三枝 明夫